真説 トイレの神様




僕にまだ毛も生えてない頃
うちにはおじさんが住んでいた
お父さんは仕事で留守勝ち
だからおじさんとよく遊んでた

いつも働いてなかったのは
あの頃は学生だったから
お昼から酒びたりだったけど
トイレ掃除だけはするおじさん

トイレには神様がいるのさ毎日きれいに磨いていたら
神さまは必ずご褒美にお金を沢山くれるのさ
「撥ね飛ばしたら即拭きなさい」



お父さんはよく怒鳴っていた
居候にやる酒はもうないと
最後には二人とも酔っ払って
一つの布団に転がった

お母さんはよく悪口を言った
早稲田に行ってもあれではね
おじさんは何を言われても
笑っていたのは酒のせいか

トイレには神様がいるのさ毎日きれいに磨いていたら
神さまは必ずご褒美にお金を沢山くれるのさ
「撥ね飛ばしたら即拭きなさい」



ある朝おじさんは僕を呼び
掃除の仕方を伝授した
ブラシと洗剤の手加減
水と雑巾の手加減

「おじさんはお酒はひどいけど
毎日毎日磨いてんだ」
正月に僕にだけこっそりと
耳打ちしたよ臭かった
お年玉をくれたことはない



卒業して何年目かの春に
うちからおじさんは出て行った
なかなか結婚もしないうちに
広いマンションを買ったらしい

僕にも毛が生えて十年
一人暮らしを始めた
煙草のヤニまみれのカーテン
トイレだけは綺麗ねと彼女が言った

トイレには神様がいるのさ
毎日きれいに磨いていたら
神さまは必ずご褒美に
お金を沢山くれるのさ
君も使うときは気をつけて



おじさんのことは忘れてた
身体を壊したはと聞いていた
僕は僕の未来に燃えていた
弟には子供も出来ていた

お父さんはいつも悪口を言った
どうしようもない人間だ
お母さんはいつも悪口を言った
早稲田を出てもあれではね

どうしてだろうか人は
ケチとも言われない人でも
何よりお金が頼りだと
つぶやく夜があるのさ
「お金さえあれば生きられる」



警察がおじさんの死を告げた
一番近い身寄りの我が家へ
異臭にお隣さんが気付いて
我慢しきれず通報した

お父さんがおじさんを確認した
八月におじさんは腐ってしまった
婦警さんがお母さんを引き止めて
見ないほうがいいですと言った

人には良い所悪い所
あるものと親は常々言った
それなのにおじさんのことだけは
一度も褒めたりしなかった
死ぬまで一度もなかった



部屋の片付けの為に初めて
3LDKを訪れた
ゴミと空き缶だらけの家なのに
トイレだけは綺麗だった

片付けものの一番下から
預金通帳が出てきた
八桁を超える預金と
マンションが彼の遺品

おじさんの携帯電話には
久しく着信もなかった
最後に癌と酒盛りを
毎晩続けてみたんだね
死ぬまで続けてみたんだね



3LDKが無事売れて
預金は兄弟が分け合った
残った親族はみんなみんな
沢山のお金に恵まれた

おじさんは神様になった
毎日きれいに磨いていたら
神様は必ずご褒美に
お金を沢山くれるのさ
おじさんは神様になった

「撥ね飛ばしたら即拭きなさい」

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