愛春歌


子もない中年ぼやく
暮らしに追われて悉く
俯く帰宅の途の
靴で春に気がつくという

昼下がりの並木には
早くも陣はる男たち
ロープで囲って一服
季節まで値切るかのように

風がひと掃き心を浚うよ
僕らは佇み春を愛でよう

改修済みの公園に
黒々群がる女たち
シートにひろげたランチと
缶茶で季節を詠んでいる

雨がにわかに眼鏡も洗うよ
僕らは黙って春を愛でよう

虚しさ故の宴のあと
並木道は反吐の川
そこらじゅうが屑の山
僕らの在処は道化の山麓なのか

風がひと掃き心を浚うよ
雨がにわかに眼鏡も洗うよ
暮らしの中に春を愛でよう
言葉で叶わぬ春を愛でよう

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